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おおのじょうの伝説(庄屋に化けた古狸)

場所
上筒井
分類番号
歴-0050か 文-0071か

庄屋に化けた古狸

黒田の殿様から脇差帯刀(わきざしたいとう)を許された筒井村庄屋四代目善六は、周囲に堀をめぐらし、庭内には楠(くすのき)・銀杏(いちょう)・松・樫(かし)などの老樹がそびえる広大な屋敷に住み、黒田藩の武士の娘で、心やさしくたしなみ深い、大そうきれいな妻を迎えて暮らしておりました。
ある日、年貢米(ねんぐまい)を納めるための打ち合わせに、1泊の予定でお城下町博多に出かけて行きましたが、夕方になると突然帰宅しました。大変心配した妻はどこか体の具合が悪いのかと尋ねましたが、どこも悪くないと答えるだけです。夕食の膳(ぜん)についた夫を見ると、右手に箸(はし)を持っているではありませんか。夫は左利きであったはずです。それに今朝持たせてやった財布の模様も違います。便所へ行くときも廊下を間違えて裏口のほうへ行こうとしてしまいました。毎日かかしたことのない大好きな風呂にも入ろうとせず、習慣になっている日記もつけようとしません。
いつもと様子が違うので、妻はずっと目を離さずに監視を続けていました。そしていつもの時間よりも早く休みたいという夫のために床(とこ)をのべ、隣の室の襖(ふすま)からそっとのぞいてみました。すると着物も着替えずじっと座っている夫の後姿に、尻尾がのぞいているではありませんか。武士の娘に育った気丈(きじょう)な妻は懐剣(かいけん;護身用の短剣)をしのばせて、何食わぬ顔で怪物である夫のそばに近づき、心臓のあたりを剣も折れよとばかりに一突きしました。怪物は「ギャー」と絶叫しながら、勝手口から外へ逃げていきました。
家中の者がその悲鳴を聞いてかけつけました。事情を聞いて提灯(ちょうちん)をつけて、屋敷のまわりを探しますと、血痕(けっこん)が点々と屋敷の隅の楠の老樹の根方まで続き、老木のほら穴の中に消えています。灯りを差し出すと、そこには年古りた狸が絶命しておりました。
やさしくてきれいな庄屋さんの奥さんを好きになった古狸が、主人の留守の間に主人に化けて、奥さんに近づこうとしたのだと、近所の人はうわさしたということです。